海外裁判所見学記

2014年11月19日 水曜日

台湾 台北の地方裁判所(2012年)

平成24年1月5日に、台北市内にある2つの裁判所を見学しました。私たちは中国語ができませんから、旅行会社に法廷傍聴のための通訳(彼女の妹も弁護士をしているそうです。)をお願いしました。

最初に台北地方裁判所を訪れましたが、建物の入口で手荷物検査があることは、東京地裁と変わりがありません。台北地方裁判所の建物の大きさは、日本の地方都市の裁判所と同程度で、東京地裁と比べるとかなり小さいという印象を持ちました。但し、1階に訴状の受付をはじめとする様々な裁判手続きを行うためのスペース、郵便局、登記所などがまとまって分かりやすく配置されており、利用者には、とても便利だろうと感じました。


まず、民事事件の法廷を傍聴しました。3階が民事事件の法廷がある階でした。案内の係がおり、何か困っているような素振りの人を見つけると声をかけてくれます。東京地裁では、このような親切な対応はされていないので、見習って欲しいと思いました。法廷の広さは、法廷毎に異なりますが、概ね東京地裁の一般法廷よりも狭く、傍聴席から証人席に手が届くほどでした。当事者席と裁判官席には、漢字で、原告、上訴人、被告、被上訴人、審判長(裁判長のこと)などの表示がされているので分かりやすく、どこに座るかで当事者が迷うことはなさそうです。

日本の法廷と異なる点は幾つもありましたが、その一つは裁判官の名前が表示されていることです。審判長席には、「審判長●●」と表示され、陪席の裁判官席には、「法官●●」と表示されていました。裁判官席の片隅に「学習法官」と表示され、そこに若い男性が座っていました。日本の司法修習生でしたが、文字通りで、むしろわかりやすく感じました。 私たちが傍聴した法廷では、原告席と被告席は、日本の裁判所と同じで、相対する位置関係にありました。

印象的であった裁判官、弁護士、検察官の服装の話をします。日本では裁判官が法服を着用する以外、弁護士も検察官も決まった服装はありませんが、台湾の法廷では、各人の法服が決まっています、それぞれ日本の裁判所の法服に似た黒い服ですが、裁判官は首の周りから胸にかけて青色のラインが縁取りされています。縁取りの幅は相当広く7、8センチ位でしょうか。袖の部分にも同じように青色で縁取りがなされていて、とても目立ちます。この法服の色が、検察官になると、明るいアザミのような色になり、弁護士は白になります。したがって、その色を見れば、どのような立場かすぐに分かります。

私たちが傍聴した法廷では、9時40分頃から弁論が行われていました。東京地裁では、午前中の裁判は午前10時に始まりますので、台北地方裁判所の方が早いようです。また、東京地裁では、同時刻に何件もの弁論が入るので、2~30分待たされることも少なくありませんが、台北地方裁判所では、10分間隔で弁論が入っていましたので、待たされることはあまりなさそうです。私たちが傍聴した事件は、不動産の売買契約を巡る損害賠償請求事件や管理組合からの管理費の請求事件、株主であることの確認を求める事件等でした。

法廷傍聴をして一番印象的なことは、裁判所のIT化が驚くほど進んでいることでした。台湾では3年前から台北市を皮切りとして、法廷の裁判官席、原告席、被告席、証人席の各机上にパソコンを設置したそうです。法廷では、原告・被告の各代理人や裁判官が発言すると、書記官が直ちにその発言内容を要約してパソコンに入力し、その内容がディスプレー上に表示されます。各人の発言内容が即時に記録され、表示されるので、表示内容や趣旨が違っていれば、すぐさま訂正を申し入れることができます。それだけに書記官の仕事は大変で、相当の実力と集中力が要求されることでしょう。IT化することで仕事が効率的になった反面、書記官の仕事は却って労働強化されているように思いました。

証人席に設置してあるパソコンのディスプレーは、傍聴席から読むことができるほど近距離にあったので、私たちも、画面を見て事件の内容を推測することができました。訴状陳述、答弁書陳述と言った日本の裁判所でも使用される決まり文句だけでなく、不動産売買契約、同時履行の抗弁、契約解除といった日本の民法でも使用される漢字が表示されるので、概略でも事件の内容を理解できた気分になりました。ただし、常にパソコンのディスプレーに目を奪われるので、裁判官も弁護士も、お互いの顔や証人を見るよりも、パソコンを見ながら裁判を行っているような印象がします。

弁論の時間は、日本より長くとられているため、かなり充実した実質的な議論を行っていました。これらがすべてパソコンに打ち込まれ、最後に次回期日も決められ、入力されます。たぶん、これをプリントアウトすれば、弁論期日の調書になるのだと思います。

次に、刑事事件の法廷を傍聴しました。2階が刑事事件の法廷がある階でした。法廷の大きさなどは民事の法廷と同じでした。したがって、すぐ目の前に証人が座って証言をしているので、極めて臨場感のある法廷でした。証人に対する尋問が弁護人から行われていましたが、弁護人があまり意味のない尋問をしたためでしょうか、審判長が笑いながら注意している場面もありました。このような場面は、万国共通のようです。事件は、知人間の強盗事件のようでした。


台北地方裁判所を見学した後、台北高等法院を見学しました。台北高等法院は、台北地方裁判所から5分ほど離れたところにあり、刑事事件と民事事件が別の建物で行われていました。民事事件の裁判所は、写真のように煉瓦造りで、台北地方裁判所よりも立派です。

時間がなかったことから、刑事事件を一つ傍聴した後、民事事件を傍聴しました。台北地方裁判所と異なり、控訴人と被控訴人の席がお互いに対面する形式ではなく、裁判官席に対面して、控訴人と被控訴人が並んで座る形式となっていました。これは他の国でも見る形式ですが、日本では見かけないので、珍しく感じます。ちょうど、弁論が行われていましたが、録音中である旨の表示がなされていました。日本の裁判所では、通常は、証人尋問しか録音しませんので、弁論でも録音をしていることにやや驚きました。

これまで幾つかの国の裁判所を見学してきましたが、台湾の裁判所は、IT化が最も進んでいるという点で、非常に印象に残りました。建物自体の壮麗さや法廷の厳粛さという点から見ると、ドイツやフランスの裁判所の方がずっと素晴らしく、どちらかと言えば、台湾の裁判所(特に地方裁判所)は貧弱な印象さえ受けるのですが、IT化という点では最先端をいっているということで、新鮮な驚きがありました。日本の裁判所でも、台湾のように、裁判官席、原告席、被告席、証人席の各机上にパソコンが設置され、ディスプレーを見ながら遣り取りをする日が遠からずくるのでしょうか。

投稿者 ソフィア法律事務所